img_main_title.jpgimg_main_title.jpg

HOME研究会 > 2014年5月22日

img_title_SEMINAR.jpg

清泉女子大学大学院地球市民学専攻「公開セミナー」

テーマ  ヨーロッパにおける選別的移民政策:ドイツとEUの「望ましくない移民」の管理・取り締まり
講 師   昔農英明氏(清泉女子大学大学院人文科学研究科非常勤講師、一橋大学社会学部非常勤講師
日 時    2014年5月22日〜 18:10〜20:30
場 所   清泉女子大学 本館 大会議室


講師プロフィール

 2011年、慶應義塾大学大学院社会学研究科博士課程修了。社会学博士(慶應義塾大学)。専門は国際社会学、ドイツ地域研究。日本学術振興会特別研究員(PD)、東洋英和女学院大学国際社会学部非常勤講師などを歴任。

 著作に、『「移民国家ドイツ」の難民庇護政策』(慶應義塾大学出版会、2014年10月刊行予定)、「セキュリティ対策としての移民統合:2000年代のドイツの事例」(『社会学評論』、2014年)などがある。


報告の概要

 今日、ヨーロッパ諸国では、少子高齢化・労働力不足を背景に高度人材を中心とする移民の受け入れが推進されている。他方で、難民・不法移民などの「望ましくない移民」を取り締まる動きが活発になっている。

 本講演では、ヨーロッパ諸国における政治・経済のけん引役を果たす国の一つであるドイツの移民・難民問題をEU(欧州連合)の移民政策との関わりの中で取り上げる。とくに「望ましくない移民」の管理・取り締まりの現状とその問題点を紹介したい。

 ドイツの移民政策をEUの移民政策と関係づけて取り上げるのは、ヨーロッパではアジア地域などの他の地域では見られない国家横断的な移民管理・取り締まりのための新たな制度構築が進んでいるからである。また、そうした制度構築の動きを分析することはグローバル化がもたらす負の側面の理解につながる。


セミナーの記録

 近年、国境を超えた人の移動を主に研究対象とする国際社会学という社会学の一つの学問領域だけではなく、ほかの多くの社会科学の学問領域においても、「国民国家の相対化」、あるいは、さらにラディカルな立場からは、「国家の弱体化」ということすらも議論されてきた。

 「国民国家の相対化」という議論においては、国民国家という主体は、グローバル化の中で、唯一の政治的意思決定を行いうる主体ではなく、多国籍企業、国内外の市民社会などの脱国家的主体、あるいは欧州連合(EU)などの超国家的な主体が台頭し、国民国家の意思決定は制約を受けるようになったと論じられている。脱国家的・超国家的な主体が台頭し、国民国家に対して移民の権利保護を行うように圧力を加えることで、従来、受け入れ国家の公式な構成員とみなされてこなかった外国人や移民に対しても、その権利が保障されるようになったとされる。このような移民の権利を保障する国家に外在的な国際人権レジームなどの発展、および普遍的価値を重視する国家の内在的な制約の双方の影響により、移民の権利保護が進むようになったという事実は確固としてあり、これを否定することは到底できない。

 しかしながら、他方で「国民国家の相対化」という変化は、近年、ますます矛盾をはらんだものとして顕在化するようになってきた。というのもリスク社会の到来により、難民や非正規移民は福祉国家を不安定化させ、治安対策上もきわめて高リスクな存在として、管理・排除される動きも、従来以上に強まっているからである。

 ヨーロッパ諸国の移民受け入れ政策の現状を見ればわかるとおり、国家は高度人材などの国家・企業にとって「望ましい移民」の流入に対しては、その受け入れを拡大するようになってきたが、他方で難民・非正規移民などの「望ましくない移民」に対して国民国家の境界を閉じたものとする方針を掲げており、そうした点でヨーロッパ諸国は選別的な移民政策を構築している。

 とりわけヨーロッパにおいては、1980年代後半以降、EU統合が加速し、EUは国家横断的な難民・非正規移民の流入規制政策を策定するようになった。ドイツはこれまで東欧諸国からの難民・非正規移民の流入の矢面に立たされてきたために、EUの制度や組織の立ち上げに深く関与し、国家横断的な移民管理・取り締まり体制の構築に貢献している。

 EUはEU域外からの高度人材の受け入れを進めるために、EUブルーカード指令を出した一方で、難民・非正規移民のEU域内への流入・滞在を阻止する政策を遂行している。たとえば、EU域外からの難民・非正規移民の流入を対外的境界において阻止するために、2005年にEUの境界線を管理する機関である、欧州対外国境管理協力機関(FRONTEX)を設立した。さらにドイツやEUは、EU域内に流入した難民・非正規移民がEU域内に定住化しないように、再定住プログラムを策定して、できる限り難民・非正規移民をその出身国に帰還させるための自発的帰還政策を推進するようになった。

 また難民・非正規移民の効率的な管理・取り締まりのために、難民申請を行うものや非正規移民の指紋を採取し、その電子データをデータベース上で管理し、彼らの動きを追尾・追跡する管理・取り締まり体制を構築している。難民申請者や非正規移民はこうして治安管理の対象となる傾向を強めている。

 国家が難民・非正規移民を取り締まる動きはこれまでも何度も見られてきたが、国家がEUという超国家組織とともに「望ましくない」移民を取り締まる動きは、従来見られなかったことであり、さらにその管理・取り締まりにおいて、最新の技術、情報テクノロジーが積極的に活用されることも新たな試みである。

 国家やEUによる難民・非正規移民の管理・取り締まり体制の構築は、しばしば監視社会論において議論されるように、特定の人々をリスクある対象として予防拘禁的に取り締まる動きを強化する結果となる。個人の自由や人権という普遍的な価値が称揚される現代において、難民・非正規移民はその固有性が尊重されたりすることはほとんどない。難民・非正規移民は、福祉国家に負担をかける者とスティグマ化され、政治的な迫害を受けていない「偽装難民」として排除されることになる。

 人の移動を管理しようとする国民国家と超国家的な主体との関係を子細に見ると、従来言われてきたような脱国家的・超国家的な主体が国民国家の主権に制約を課すようになったという理解にとどまらない側面が顕在化している。むしろEUの共通移民政策に見られるように、国家は超国家的な主体の制約を受けつつも、超国家的な主体を活用したり、そうした体制を積極的に構築しようとしている。超国家が国家の主権に制約を課しているというよりも、むしろ超国家の政策が人の移動の制限や移民の権利保護の抑制にとって役立つという国家の利害が合致することにより、国家が国家横断的な管理・取り締まり体制の構築に積極的に関与し、それを活用しようとしている。

 このようにドイツやEUという超国家的な組織は、難民・非正規移民の国境を超えた不自由な移動を恒常的に生み出しているのである。こうした点からすれば、ジークムント・バウマンが言うように、高度人材などの「望ましい移民」が「旅行者」であれば、難民・非正規移民などの「望ましくない移民」は「放浪者」でしかないことになる。


>> 当日のスライド(抜粋)をダウンロード

img_side_GCS.jpgimg_side_GCS.jpg

img_side_FW.jpgimg_side_FW.jpg

img_side_SEMINAR.jpgimg_side_SEMINAR.jpg

img_side_NEWS.jpgimg_side_NEWS.jpg

img_side_CONTACT.jpgimg_side_CONTACT.jpg

img_side_HOME.jpgimg_side_HOME.jpg