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清泉女子大学大学院地球市民学専攻「公開セミナー」

テーマ 「中国におけるインターネットと対日感情―言説の背後にある社会構造の変化」
講 師   西本紫乃氏(元・外務省専門調査員<在中国日本大使館>)
日 時   2014年7月17日 18:10〜20:30
場 所   清泉女子大学 本館2階 大会議室


講師プロフィール
1972 年広島県生まれ。中国系と日系の航空会社勤務などを経て、2007年~2010年、外務省専門調査員として在中国日本国大使館に在籍。2014年広島大学大学院社会科学研究科博士後期課程単位満了退学。専門分野は中国メディア事情、日中異文化コミュニケーション。著書に『モノ言う中国人』(集英社新書)

報告の概要
過去10年のあいだ日本と中国との間では歴史認識問題や領土問題をめぐって繰り返し摩擦が生じてきた。そのたびに中国では日本批判の世論がまきおこり、日本製品ボイコットや反日デモ参加の呼びかけなど、インターネットがその主要な舞台となってきた。これまでの中国における対日感情とインターネットとの関係性を振り返ると、そのときどきで主に使用される情報ツール発展によって世論の状況も変化してきている。インターネットにみられる対日感情を手掛かりに、メディアがもたらしている中国の社会構造の変化について考えてみたい。

セミナーの記録

1.中国におけるインターネットの普及
(1)人々の生活に浸透している中国のインターネット
 日本人を含む海外の多くの人々は、中国のインターネット事情について「政府によって規制されている」、「報道や言論の自由がない」といったイメージを強く抱いています。しかし、私たちが思うほどには中国のインターネット・ユーザーの多くはそうした規制に縛られていると感じていないのが現実です。それは中国では2000年代以降、インターネットのサービスが多様化したことや、中国政府による積極的かつ大量の情報発信といったことが背景にあります。
 中国政府によるインターネットを活用したメディア政策は大変充実しており、日本国内にいてもスマートフォンで、中国のテレビ放送をリアルタイムで視聴できたり、各地の新聞を閲覧できます。また、インターネット・コマースの世界ではオンラインショッピングが人々のあいだに定着しているだけでなく、最近は金融商品や、タクシー配車サービスなどもインターネット上で人気を得ています。
 2010年には1週間に平均18時間だった中国のインターネット利用時間は、2013年の調査では1週間25時間に延び、今日、平均で1日あたり3時間以上インターネットを利用していることになります。それほど中国ではインターネットが人々の生活に欠かせないものになっているといえます。こうした生活に密着したインターネットのサービスの拡大を支えているのが、スマートフォンの急速な普及です。2013年には新興の中国のメーカー製造のスマートフォン、「シャオミー(小米)」が急速にシェア拡大しました。高機能で安価なスマートフォンの普及はモバイルユーザーの拡大をもたらしています。

(2)中国のインターネットの普及の歴史
 2013年末時点の中国のインターネット利用者人口は6.18億人になりました。人口の半分近くの人がインターネットを利用するようになっています。2000年代に入ってから急速に利用者が増加した中国のインターネットは、その発展の段階を3つに分けることができます。第一の段階は普及当初から2007年頃まで、この時期はこれまで表に出てくることのなかった一般の国民の声がインターネット上に登場し、「インターネット世論」を形成するという新しい社会現象を起こすようになりました。第二の段階は2007年から2010年頃まで。2007年以降、中国政府はインターネットの社会的影響力の大きさに気付き、従来のようなテレビや新聞などといったマスメディア同じようにインターネットに対して管理と規制するという方針から、管理するだけでなく、インターネットを利用して積極的に情報発信や政治宣伝を展開する方針に舵をきります。第三の段階は新しいSNSサービス「微博(ウェイボー)」が普及し始めた2010年以降です。「微博」の登場によって情報の伝達や人々のコミュニケーションのあり方に変化が生じました。
 しかし、2013年夏以降、習近平政権は「微博」の管理も強化しており、それ以降はよりクローズドなコミュニケーションになるSNS「微信」へとユーザーが移行しています。

(3)民意の表現の場としての中国のインターネット
 2003年ごろから中国ではインターネット上の国民の声が政治を動かす、といった事件が相次ぎ「インターネットが政治を問う」現象が注目されました。既存の政治システムの枠組みの中では国民の声を直接反映する社会の仕組みがない中国において、表面的には匿名で多くの人が一斉に集うインターネットはバーチャルな公共空間として大いに存在感を示しました。とりわけ「微博」の普及後、「意見領袖(オピニオンリーダー)」とよばれる著名人らの影響力が強まりました。
 こうした情報環境の変化に危機感をもった政府は、行政機関や公務員個人による「微博」での情報発信を奨励し、「政務微博」とよばれるアカウントが多数登場しています。中国共産党と中国政府は民間の自由な情報発信に対して警戒しつつ、一方で同じくインターネットを活用して民心をとらえることに注力しています。

2.中国にとっての「日本」とは?
(1)中国にとって特別な国「日本」
 日本と中国は近現代において非常に密接なつながりをもってきました。日中戦争以前より、日本人と中国人との往来は活発であり人や思想の交流が行われてきました。戦後も中国にとって日本は政治的、経済的に様々な影響を及ぼしてきました。とりわけ、江沢民政権時には経済発展と中国国内で展開された愛国主義教育の強化、そして日中関係の悪化によって、「日本」について国民レベルでは愛憎の念が入りまじった特別な感情を抱かれる対象です。

(2)中国人の3つの対日観
 一般の中国人が抱く日本についてのイメージは「歴史的イメージ」、「規範的イメージ」、「個人的なイメージ」の3つから成り立っています。
「歴史的イメージ」とは、過去の戦争経験の記憶ですが、愛国の目的のもとに政治的に構築されたイメージという特徴があります。
「規範的イメージ」とは政治やマスメディアによって社会的に構築されるイメージです。その時々の政治や国際情勢を反映し、政府の対日方針が反映され移ろいやすいイメージです。
 これに対して「個人的なイメージ」とは、個々人が日本との直接的あるいは間接的な背職によって自ら構築する日本イメージです。とりわけ最近は日本への旅行を通じて「歴史的イメージ」とも「規範的イメージ」とも異なる「個人的なイメージ」をもつ人が増えています。これらの人たちは日本について「歴史的イメージ」や「規範的イメージ」よりも「個人的なイメージ」が優位になりますが、そのような経験が乏しい人はプロパガンダによってつくられた「日本」イメージに左右されやすく、反日世論に参加するのもおもにこうした人たちです。

(3)最近の日中関係
 中国国内では2005年、2010年、2012年と繰り返し反日世論が高まりデモが発生しました。中国における日本に関する世論誘導は、その時々の中国の内政におけるさまざまな思惑に利用されている側面が否めません。習近平政権ではかつての江沢民政権時代のように歴史を鍵に、愛国イデオロギーによってふたたび国民に対する政権の求心力を保とうとする意向がうかがえます。

3.中国のインターネットと対日感情
(1)インターネットと愛国心
 バーチャルな公共空間であるインターネット上で、中国ではその普及の初期段階より国民が愛国心を高揚させる現象がみられました。インターネットを利用した愛国運動のもっとも初期のものとして、1998年にインドネシアでの華人排斥運動が発生した際に、攻撃対象となった華人女性を支援する「イエローリボン運動」が在米華人を中心に起こりました。また、1999年にユーゴスラビアの中国大使館がNATO軍によって誤爆された事件を契機に人民日報社が主催する人民網にBBS「強国論壇」が開設されました。この「強国論壇」は、その後、歴史認識問題を中心に反日感情が徐々に高まるにつれて反日世論の主戦場となっていきます。
 日本に関する事例としては、2000年に南京市の日本資本と伝えられる日本風ホテル「盛島大酒店」の開業に対して、南京市の交流サイトで抗議が高まり市民による抗議デモに発展したのが最初の反日世論の現象でした。その後、2003年には珠海での日本人団体旅行者らによる集団買春事件、西安の西北大学での日本人留学生の寸劇を発端とする反日抗議行動などが起き、その都度、インターネット上の国民の声によって中国全国の反日感情が喚起され膨張していきました。
 さらに、2008年にはチベット騒乱をめぐる欧米の批判や北京オリンピックの聖火リレーが世界各地で妨害されたこと対し、中国国内で欧米への反発世論が高まり、同年5月に発生した四川地震を契機に「中国頑張れ」がブームになって中国全国で愛国心が空前の盛り上がりを見せました。
 ただし、インターネットを舞台に盛り上がる愛国世論は過激化しやすいだけでなく、娯楽化、イベント化する傾向もみられるようになります。2008年の欧米に対する反発の世論が高まった際には、米国のニュース専門放送局CNNを揶揄する替え歌が登場したり、直接関係のない仏系スーパー、カルフールが攻撃対象にされ多くの民衆が野次馬的に抗議行動に加わるといった現象がおこりました。 インターネットは「途方もない現実」期待する大衆感情が「疑似イベント」を現実化させるための道具の性格も帯びていきました。

(2)2005年の反日デモ
 2005年の大規模な反日デモは海外からの刺激が契機となって発生しました。もともと、2003年頃から日本の国連常任理事国入り反対の機運が中国で高まっていました。くわえて当時の小泉総理による靖国参拝や歴史教科書問題が重なり、在米華人によってインターネット上で日本の国連常任理事国入りに反対する署名活動「918長城署名サイト」が開設されました。このインターネット・ユーザー参加型の署名サイトでは海外、中国国内で署名者が1000万人を超え、愛国感情を中国国内で爆発させる大きな要因となりました。
 そして、2005年、4月、成都、深圳、北京、広州で相次いで反日デモが発生し、デモは中国各地の20都市で起こり10万人が参加したとされます。次第に過激化していった反日デモに対して外交部、公安は過激な抗議行動を批判し、当局はこれを制御に乗り出しました。中国政府はこの時の経験から、インターネットを媒介として発生する集団行動は放置しておくと危険だとの認識をもちその後、インターネット上での世論の動向や集団行動の発生について調査と対策を行うようになっていきます。

(3)2010年と2012年の反日デモ
 2010年、2012年にも、尖閣諸島の領有権をめぐり、中国国内で反日デモが発生しました。この時の反日世論の拡大とデモの性質は2005年の時とは変化が見られました。それにはインターネット世論の場が変化してきたことも背景要因となっています。2005年の反日デモの際には、インターネット世論はBBSや各ニュース記事に付設されたコメント欄を中心に拡大していきました。そこに過激な反日グループが世論を主導して全国的に反日感情が大きくなり、これに意見をしたり反対する声がこれに完全に呑み込まれてしまいました。これに対して、2010年、2012年の頃にはSNSサービス「微博」に世論の場が移っており、これによって多様な意見が登場して意見グループを形成するという現象が見られました。狭隘な愛国主義に反対する声も顕在化し「理性愛国、反対暴力」と過激な反日デモを批判する意見グループも出現しました。

4.インターネットと社会構造の変化
(1)社会環境の変化
 社会主義国である中国では、従来、職場や居住地域において政治権力が個人の生活や行動まで管理していました。一般的に公共の場は個人にとって政治的な役割を演じるところであり、家庭内や親しい人のあいだでのホンネと外でのタテマエを使い分けることが当たり前でした。インターネット上のバーチャルな公共空間は、表面的ではあれ匿名性と多数性という特徴があり、これまで外で語られることのなかった人々のホンネがそこに登場して、インターネット世論を形成するようになりました。
 しかし、大勢の多様な人々が集う空間では、人々が関心を共有できるのは反日デモに代表される「愛国心」や公権力の腐敗に対する批判にみられる「社会的公正さ」の追求といった大きなテーマにならざるをえませんでした。初期のインターネット上の公共空間はバラバラな多数者が集う場所であったため、個別具体的な問題について議論の公共性を維持することが難しい傾向にありました。
 2010年頃からSNS「微博」が普及することで、人と人をつなぐネットワークが社会的に大きな意味をもつようになります。同じような関心事や同質性の高い人同士で小グループを形成するSNSの特徴は多様な意見の出現を可能にしました。
 こうしたSNSの特徴が活用されて、草の根のNGO「微公益」の活動が各地でみられるようになっています。

(2)社会の現代化と管理
 都市と農村では経済格差だけでなく、人々の価値観も大きい中国ですが、インターネットはそうした地域の境界をとりはらった空間であり様々な価値観や行動が混在しています。政府の側は、インターネットを管理する理由として社会の規範を逸脱した虚偽の情報の流布や詐欺行為の横行によって人々の生活に不利益がもたらされることを理由に、インターネットの管理の必要性を強調します。
 他方で、高度な教育を受けて教養を身につけている人や、すでに豊かな暮らしを享受している人もインターネット上には存在します。そうした人たちからすれば公権力によるインターネットの管理はある程度は妥当性を認めて受け入れるものの、やはり窮屈に感じられるものであり見えない不満は蓄積していきます。

(3)情報発信の脱中心化
 中国共産党は建国以前より、政治における情報の役割を非常に重視してきました。このため、今日に至るまでテレビや新聞だけでなくあらゆる文化的なコンテンツに政治的に意味づけ、方向付けをして発信をする仕組みを整えています。これに対してまったくあたらしいメディアとしてのインターネットはこれまで政治権力が握っていた情報発信の中心性をゆるがしました。とくに「微博」の普及によって民間のオピニオンリーダーが多数登場し、彼らの発言を多くの人が支持し議論の中心としての役割をはたすようになりました。
 これまで中国では中国共産党の意見が正しく、国全体がそれに合わせるように求められてきましたが、インターネットの普及により報発信の脱中心化が起こっています。

<質疑応答>
Q1. アラブの国々と比べて、中国のインターネット管理が優れていた点があるとすればそれはどのようなところか?
A1. 中国政府は早い段階からインターネットがもたらす情報統制と社会管理に与える負の影響を意識していた。2005年の反日デモの教訓もあり、2007年頃から国をあげてインターネットについて研究し、管理の方法を模索してきた。2009年の時点でYoutube、Twitter、Facebookはすべて中国国内では使用できなくなっており、その代わりに政治的に管理しやすい中国国内の企業によって同様のサービスを提供するようにしている。そうした努力の結果、2012年春に、中東各国で発生した市民革命が中国に波及しかけたが、中国政府はこれを制圧することに成功している。中国が中東と異なっていたのは、インターネットの危険性にはやくから気づいて対応を行っていたことに加え、社会主義体制の下で社会の管理システムがより洗練されていたこととがあげられる。

Q2. インターネットの時代になって、たくさんの情報がそこにあふれてとの時々の世論のメインストリームをつかむことが困難になってきている。インターネットを研究対象としたとき、インターネット上の大量の情報を分析するスキームはあるか?
A2. 従来のマスメディアと異なり大量の情報があふれるインターネット上ではどの情報をとってもそれは事実であり、何を切り取って事実とするかは語る側の意思に大きく受けることになる。こうしたインターネットがもつ特徴によって今回紹介した中国の反日世論の加速のような現象が起きているし、日本でも反原発や嫌韓・嫌中ナショナリズムの拡大が起こっている。こうした現象はインターネットが普及したことによる避けられない環境の変化である。そこに現れる言説そのものを分析することはあまり意味をなさなくなってきていると感じる。

Q3. 中国政府がインターネットを規制することの是非についてどのようにみているか?
A1. 実際にそうした環境におかれている中国国内の大多数の人々は、我々が思うほど規制されることで不自由を感じていないのが現実である。当事者が問題視していないものについて我々は否定すべきでないと考えるが、社会の成熟にともなっていずれメディア規制についての是非を問う声が中国国内からあがるようになるだろう。実際に2013年1月に『南方週末』で憲政について触れた社説が現地の宣伝部の意向によって差し替えられ、これに対して記者らを中心に、宣伝部に対する批判の世論が高まったことがある。このような事例が繰り返されていけば、いずれ自由でない情報環境について国民の反発も強まってくるだろう。

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